「自然はさびしい。しかし人の手が加わると暖かくなる。」
民俗学者の宮本常一が旧山古志村を訪れた時に書いたものだ。
その手は、農民の手だ。
マスコミが伝える世界がある一方で、伝えないひとりひとりの暮らし、
ごくわずかな人間たちの暮らしがある。
宮本常一は、生涯のうち4000日以上を民俗調査に充てた。
3000を超える地域を訪ね、子供や労働に汗を流す男や女たち、
街角、橋、看板、洗濯物――とあらゆるものに視点を向けた。
その現場に行かなければ、決してこの言葉は出てこないだろう。
あの厳しい山古志に行かなければ、
「暖かさ」は感じられないだろう。
いま、宮本常一が震災で破壊された山古志を見て
どんな言葉を語るだろう。